高尾美穂
イーク表参道の副院長として女性の健康をサポートし、ライフスタイルにあった治療法を提示する高尾美穂先生。株式会社ドーム(アンダーアーマー)では産業医としてだけでなくスポーツドクターとしても、多くの女性アスリートのメディカル、メンタルサポートを行っています。微量採血検査キット『aiwell care(アイウェルケア)』の監修医師でもある高尾先生に、血液検査の重要性について伺いました。
●血液検査は信頼性の高い体内の情報を得ることができる
Q:最初に「なぜ定期的に血液検査をした方が良いのか?」という理由を教えてください。
血液検査で何がわかるかというと、体の中の異常です。尿検査や毛髪検査など、体の状態を調べる方法はいくつかありますが、医療現場では血液検査がもっとも信頼されています。尿は脱水より数値の変化があり、外的な影響を受けやすいのですが、血液はその影響が少ないと考えられています。血液検査上で変化が出たということは、体内で相当な変化があったと言えます。血液検査は、記録として信頼性が高いことが特徴として挙げられます。
Q:血液から得られる情報は多く、信頼性があるということですね。
はい。今まで血液検査の結果は、基本的には病院でしか知ることができませんでした。しかも、それなりの量の血液が必要でした。でもいまは『aiwell care』のような微量採血検査キットがので、わずかな血液の量で、かつ知りたい項目をカスタマイズすることができます。わざわざ病院に行って検査をしなくても、信頼度の高い結果を得られる時代になったと言えます。
Q:どのぐらいの頻度で、検査した方が良いのでしょうか?
一般の方であれば、まずは 1 年に 1 回をおすすめします。年に 1 回の検査はあくまでスクリーニングなので、異常があればそこからフォローしていくことが必要です。また、異常がなかったとしても、ごく少量の血液で検査できるので、経時的なフォローアップが可能です。
●『aiwell care』は微量の血液でたくさんの項目がわかる
Q:『aiwell care』のような微量採血検査キットができるまでは、それなりの量の血液を収集しないと、正確なデータを採ることができなかったのでしょうか?
そうなんです。『aiwell care』で検査可能な赤血球や白血球の数値を調べるだけでも、2cc 程度の血液が必要でした。血を取られた側からすると、結構多いなと感じる量だと思います。『aiwell care』は微量の血液で、赤血球や白血球だけでなく、肝機能や腎機能など多くの項目が網羅できるようになりました。の点はアスリートへの負担軽減になると思います。
Q:アスリートに対して「この項目の数値がわかると、パフォーマンスアップや健康維持につながる」というのは、どのような項目がありますか?
一つ挙げるならば、ヘモグロビンです。くらっとするのが貧血ではなく、ヘモグロビン値が低いのを医学的に貧血と呼んでいます。ヘグロビン値が高い人は酸素運搬能が高いという見方もできます。反対にヘモグロビンの値が低い人は、トータル的なエネルギー量が足りていない可能性が高いという見方もできます。CBC(血球検査)は、医療の現場では「あって当たり前」のデータなのですが、いままでの微量採血では結果を出せない項目だったので、私たち医者がこれまでの微量採血の検査結果を見ると「必要なデータが半分ぐらい欠けているな」という印象だったのです。それが、『aiwell care』の登場により、CBC も含め多くの項目を調べられるようになったので、医療機関として「使える」という判断をする先生が多くいると思います。
●アスリートが血液検査をするべき理由
Q:女性アスリートの問題として、月経不順がありますが、女性アスリートが血液検査をした方がいい理由はなんでしょうか?
まず、男性アスリートのケースから説明しましょう。一般的に、ヘモグロビン値に変化が起きる原因は、慢性的な疲労が挙げられます。もう一つが、陸上の長距離選手に多いケースで、体を軽くするために摂取エネルギー量を落とすことによってヘモグロビン値に変化が起こっているケースが多いです。その際には慢性的な疲労を感じているケースが多く、その結果、パフォーマンスが落ちる原因にもなります。それ以外だと、体内のどこかから出血しているケース。よくあるのが、胃潰瘍や大腸癌などの症状です。男性の場合は特にヘモグロビン値を見ることで、体内のどこかで出血していることがわかります。女性の場合は生理中に出血しますが、それが原因となってヘモグロビン値が急激に下がることはありません。つまり生理中だけ貧血になるわけではなく、生理中貧血の方は普段から貧血です。
Q:たしかに、貧血気味の女性は多いイメージがありますよね?
慢性的にヘモグロビン値が低いかどうかは、一回の採血でわかります。とくに持久系のスポーツの場合、ヘモグロビン値に異常があると、パフォーマンスの低下として顕著に表れてきたりします。女性アスリートの場合は、まずは一度検査をして、自分が貧血ではないことを確かめる必要があります。女子サッカー選手でなぜか調子が上がらない選手がいて、メンタルの問題かと考えられていましたが、血液検査をしたところ、ヘモグロビン値が下がっていて、貧血によるパフォーマンスダウンだとわかりました。ほかにも、誰もが知る女性の金メダリストも貧血傾向であることを自分で把握しており、食事にかなり気をつけて、定期的なチェックもしていました。女性アスリートの場合、調子が悪いと「やる気がない」と言われるケースもありますが、体の中の変化を見れば原因がわかることもあるので、定期的な血液検査をおすすめします。
●陸上系の選手に、とくに必要な血液検査
Q:血液検査は、どのような競技の女性アスリートに必要でしょうか?
アスリート全般に必要なのですが、あえて挙げるなら陸上や長距離などの持久系スポーツや、試合時間の長いサッカーなどの競技です。『行軍症候群』という、足を使い続けることで足の裏で赤血球を踏み潰し、壊れてしまうことによる貧血もあるんです。とくにマラソンなどの陸上競技の選手は、行軍症候群になりやすいと言われています。
Q:男性アスリートの場合、疲労の蓄積をチェックするために、血液検査でどの項目を調べた方が良いのでしょうか?
『CK(クレアチンキナーゼ)』の数値は筋肉の状態が反映されるので、運動をした後には上昇が認められます。そのため、筋疲労のマーカーとして捉えることも可能です。肉離れの人、筋肉痛の人、筋肉疲労が溜まっている人とでは、数値の回復速度が違うので、経時的に追っていくことで、ケガからいつ試合に復帰できるかの目安にもなります。今後、『aiwell care』のような微量採血によるフォローアップが浸透すれば、CK(クレアチンキナーゼ)の値を見て、いつ練習に復帰させれば良いかなどの判断が本人の主観だけでなく客観的に判断できるようになると思います。
Q:『aiwell care』のような微量採血検査キットを使えば、セルフで簡単に血液検査ができます。
多くのデータが採れてコンディショニングやパフォーマンスアップにつなげられるので、やらない手はないですね。
競技レベルを上げたいアスリートは、血液検査をすることが現状としても当たり前だったりもします。血液検査の数値をアスリートのコンディショニング、パフォーマンスアップにつなげる時代において、病院に行かなくても、コートや合宿場などでも、低侵襲で簡便に検査ができるので、コーチやトレーナーやそして栄養士のみなさんの中でも、血液検査の数値を参考に指導の内容を変える人が増えると思います。
●貧血の女性こそ、検査をして改善を
Q:アスリートではない、一般女性が血液検査をすることの重要性はどのようなものがありますか?
女性では「私はもともと貧血だから」と諦めているケースが少なからずあります。貧血の状態は、決して正常ではありません。生まれつき貧血という人はいなくて、少しずつヘモグロビン値が下がり、低ヘモグロビン状態に体が慣れているだけなんですね。低ヘモグロビン状態が続いた結果、心拍数が高い状態が維持されて、長期的に見て心負荷に相当します。そのため、低ヘモグロビン状態は自覚がなくても治さなければいけないものです。世の中的に、貧血が当たり前になってしまっている女性は少なくありませんが、原因があって起こっていることなので、ぜひ血液検査でご自身の状態を確認していただければと思います。病院に行く暇がない人は自宅でもチェックできる『aiwell care』を是非お試しください。高尾美穂(たかおみほ)
監修医師について
産婦人科専門医・医学博士・婦人科スポーツドクター
女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道 副院長
株式会社ドーム(アンダーアーマー)アドバイザリードクター
文部科学省・国立スポーツ科学センター 女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー